大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)12225号 判決 1998年5月14日

主文

一  被告は、原告に対し、金二四三二万〇一二三円及び内金一二八五万九〇〇八円に対して平成六年七月一日から、内金九七六万一一一五円に対して平成一〇年一月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、別紙第一物件目録記載の建物の一階車庫南側出入口に隣接する敷地にある別紙第二物件目録記載一ないし三のレール、鉄扉固定枠及び車庫鉄扉を撤去し、レール跡をセメントで塞ぐ工事をせよ。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は、区分所有建物の管理組合の管理者である原告が、区分所有者である被告に対し、共用部分の管理費を請求するとともに、被告が専用使用部分に設置した鉄扉等の撤去を請求する事案である。

一  争いのない事実

1 原告は、東京都豊島区北大塚《番地略》所在の区分所有建物ライオンズステーションプラザ大塚第二(以下「本件建物」という。)のうち住戸部分の区分所有者全員をもって構成するライオンズステーションプラザ大塚第二管理組合(以下「管理組合」という。)の管理者であり、平成五年一二月四日の管理組合総会において、本件訴訟の原告となることが決まった者である(集会の決議につき甲二二号証)。

被告は、本件建物のうち別紙第一物件目録記載の専有部分(以下「一〇一号室」という。)を所有する区分所有者である。

2 本件建物は、本件建物が所在する土地を所有していた被告と区分所有建物等の開発・分譲業者である株式会社大京(以下「大京」という。)との間の共同事業による、いわゆる等価交換方式の区分所有建物であり、右共同事業に関する契約により、昭和五七年七月頃、被告は、一〇一号室とこれに係る共用部分の共有持分及び敷地の共有持分を取得し、大京は、本件建物の五階以上にある住戸部分五六戸とこれに係る共用部分の共有持分及び敷地の共有持分を取得し分譲したものである。

3 管理組合には、住戸部分の区分所有者全員の書面による合意により設定されたライオンズステーションプラザ大塚第二管理規約(以下「管理規約」という。)があり、管理規約には、本件建物の管理等について次のような定めがある。なお、管理規約は、大京が本件建物の住戸部分を分譲するに際し、管理規約案を作成し、住戸部分の買主全員が大京から示された右管理規約案をそのまま承認したものである。

(一) 住戸部分の区分所有者は管理規約を定める(前文)。

(二) 敷地並びに建物の全体共用部分は一〇一号室区分所有者と住戸部分区分所有者全員の共有とし、また、住戸共用部分は住戸部分区分所有者全員の共有とし、それぞれその範囲は次のとおりとする(五条)。

全体共用部分

建物の部分 建物の基礎・外壁・屋上・塔屋・電気室・通路(二階)・外階段等

建物の附属物 給排水衛生設備(ただし汚水槽を除く)・非常警報設備・連結送水管設備・共同視聴用アンテナ・避雷針等

附属施設 ポリバケツ置場等

住戸共用部分

建物の部分 エントランスホール・エレベーター室・エレベーター機械室・外廊下・管理事務室・バルコニー・ルーフバルコニー・受水槽(地下)等

建物の附属物 エレベーター・屋上高架水槽・集合郵便受等

附属施設 なし

(三) 敷地及び共用部分等の各区分所有者の共有持分は、建物の専有部分の総床面積に対して各区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合による(六条)。

(四) 各区分所有者は、一〇一号室の区分所有者が敷地のうち一〇一号室が直接する一部で南側前面公道までの部分につき通常の倉庫、車庫の出入口及び営業用看板設置場所としての用法で専用使用することを承認する(九条)。

(五) 敷地及び共用部分等の専用使用部分については、当該部分の専用使用を認められた区分所有者が自己の責任と負担において管理する。右の管理を行うにあたって、当該区分所有者は、当該部分に構造物、建築物等を構築、設置し、又はその外観、形状等を変更してはならない(一三条)。

(六) 敷地及び共用部分等のうち専用使用部分を除いた部分については、管理組合がその責任と負担において管理する(一四条)。

(七) 各区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する費用(以下「管理費等」という。)として管理費及び修繕積立金を負担しなければならない。管理費等の金額は、別紙「管理費・修繕積立金負担額表(月額)共有持分表」記載のとおりとする(一七条)。

(八) 管理組合は、住戸部分の区分所有者全員をもって構成する(二四条)。

(九) 管理組合は、敷地及び共用部分等の維持管理、変更処分、管理に関する会計等の業務を行う(二七条)。

(一〇) 区分所有者は、一〇一号室区分所有者が全体共用部分にかかる費用について、全体共用部分の共有持分の割合で別途負担することを容認する(七〇条)。

4 大京が住戸部分の分譲に際し買主に示した重要事項説明書には、「一〇一号室区分所有者は管理規約を承認のうえ別途自主管理する。ただし、全体共用となる設備、施設等については共有持分割合で別途費用負担をする。」旨の記載があった。

5 本件建物は、昭和五八年八月初旬に完成し、住戸部分の買主は、その頃大京から順次住戸部分を買い受け、引渡しを受けた。

6 被告は、本件建物の一階車庫南側出入口に隣接する敷地(別紙図面一及び二記載の場所)に別紙第二物件目録記載のレール、鉄扉固定枠及び車庫鉄扉を設置した。

二  原告の主張

1 管理組合は、昭和五八年八月初旬以来今日まで、住戸共用部分のみならず全体共用部分に係る維持管理を行うとともにこれに要する費用をすべて負担してきた。昭和五九年八月一日から平成九年一二月末日までに被告が負担すべき全体共用部分に係る維持管理費用は合計で二二六二万〇一二三円である。

本件建物の分譲に際しては、大京と被告との間で、管理業務のすべてを管理会社に委託することを前提として管理規約案が作成されたのであって、被告は管理規約を承認したものである。

原告は、管理規約七〇条に基づく管理費用支払請求権又は全体共用部分に係る維持管理費用の立替金返還請求権、もしくは不当利得返還請求権に基づき、右二二六二万〇一二三円の支払を求める。

その計算方法は次のとおりである。

(一) 管理組合が昭和五九年八月一日から平成五年七月三一日までの各年度に敷地及び共用部分等(以下「共用部分等」という。)の維持管理のために要した費用の明細並びに勘定科目毎に合計した勘定科目別合計額及びその月平均額は、別紙共用部分等管理費用一覧表記載のとおりである。右一覧表のうち、平成元年八月一日から平成二年七月三一日までの一年間を三月三一日までと四月一日以降に分けたのは、四月一日をもって管理業務の委託先を大京管理株式会社から日本ハウズィング株式会社に変更したためである。また、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの一年間を、それまでの八年間と分けて表にしたのは、大京が本件建物の分譲時に定めた管理費等の額では共用部分等の維持管理に支障をきたすようになったので、平成四年八月一日をもって住戸部分区分所有者が負担すべき管理費を値上げしたためである。

(二) 右勘定科目のうち、清掃費、配水管清掃費、貯水槽清掃費、その他設備管理業務費、通信交通費、租税公課、修繕費、雑費及び組合運営費は、住戸共用部分の維持管理に係る費用のみならず全体共用部分の維持管理にも係る費用を含んでいるが、少額であるため、煩雑を避けてこれを除外し、管理委託費、昇降設備保守費、消防用設備保守費、法定建築設備点検費、特殊建築物定期検査費、電気料、水道料、火災保険料及び備品消耗品費が全体共用部分の維持管理にも係る費用として計算した。

これらが全体共用部分の維持管理にも係る費用であるのは、次の理由による。

(1) 管理委託費

管理組合は、管理業務のほぼすべてを当初大京管理株式会社に、平成二年四月一日以降日本ハウズィング株式会社に委託し、管理委託費を支払っている。管理業務には、大別すると事務管理業務、管理員業務、清掃業務及び設備管理業務が含まれる。

<1> 事務管理業務

事務管理業務には、出納業務、会計業務、管理運営業務がある。

出納業務の内容は、管理費等の収納、保管及び運用並びに諸費用の支払、帳簿等の管理、未収納金の徴収等である。住戸区分所有者は全体共用部分の維持管理に必要な管理費等も負担し支払っているのであるから、管理費等の収納(未収納金の徴収を含む。)、保管及び運用は全体共用部分の維持管理に係る行為でもある。また、諸費用の支払は、全体共用部分に係る水道料や電気料の支払、本件建物の火災保険料等の支払をはじめ、消防用設備保守費や法定建築物設備点検費等全体共用部分の維持管理に必要な費用の支払を含むものである。したがって、帳簿等の管理が全体共用部分の維持管理に係る行為であることも明らかである。

会計業務の内容は、予算案、決算案の作成の補助と収支状況の報告である。予算案、決算案の作成に際しては、全体共用部分の維持管理を円滑かつ適正に行うためにどのように予算を組んだらよいかなどについて、管理会社から助言を受けるとともに、作成作業の補助を受けている。また、管理組合は、管理会社から全体共用部分の維持管理に係る費用を含めた収支の状況の報告を受けている。

管理運営業務の内容は、建物の補修工事、設備の保守点検等の外注、消防設備点検等の防火管理業務の補助、修繕契約や火災保険契約など各種契約締結の代行、大規模修繕計画の立案補助、特殊建築物定期検査や昇降機定期検査の定期報告等官公庁との折衝であり、全体共用部分の維持管理に係る行為である。たとえば、管理組合は、平成四年六月二〇日、本件建物の鉄部塗装工事、屋上笠木補修工事等を外注し、実施した。

<2> 管理員業務

管理員業務には、受付等の業務、点検業務、立会業務、設備監視業務、報告連絡業務及び管理補助業務がある。

受付等の業務の内容は、一〇一号室テナントへの来客の入口案内、同テナントへの荷物の配達案内などである。点検業務や設備監視業務は、全体共用部分である通路や階段に設置された照明の点灯、消灯及び管球類の点検や全体共同部分たる給排水衛生設備等の監視である。立会業務としては、全体共用部分たる設備の保守点検や全体共用部分の補修工事の際などの立会である。また、管理組合は、管理会社から、全体共用部分の維持管理に係る費用に関する小口現金支払明細や全体共用部分たる諸設備の点検結果等について報告連絡を受けている。管理補助業務は未収納金の督促業務である。したがって、これらの業務は、全体共用部分の維持管理にも係るものである。

<3> 清掃業務

管理会社は、全体共用部分たる本件建物の四階屋上(一〇一号室の屋上部分)、通路部分、ポリバケツ置場、外階段等の日常清掃を行っている。特に、通路部分には、住戸部分のゴミや被告及び一〇一号室テナントのゴミのほか、被告が所有する隣接マンションのゴミも出されるため、ゴミの整理整頓、可燃・不燃ゴミの区分け、ゴミ出し後の通路清掃等を毎日行っている。

<4> 設備管理業務

管理会社は、内外壁等建物表層部の外観点検、特殊建築物・建築設備の法定点検、ポリバケツ置場の点検(消毒剤の散布を含む。)、通路部分や階段等における管球類の点検、避雷針の外観点検、消火器等消防設備の点検、警報装置の点検、エレベーターの点検、排水設備の外観点検等を行っている。

(2) 昇降設備保守費

管理規約により、エレベーターは住戸共用部分と定められているため、エレベーターの動力料は住戸区分所有者が負担するものとして計算した。しかしながら、本件建物の屋上には被告所有のキュービクルが設置されており、その点検、修理等のため、被告及びその関係者が実際にエレベーターを利用しているし、今後も必ず利用しなければならない構造になっているのであるから、エレベーターは本来全体共用部分と定めるべきものである。したがって、エレベーターの保守費は被告も負担すべきである。管理組合は、建築基準法一二条二項に基づき、エレベーターの定期検査を実施し、その結果を豊島区長に報告している。

(3) 消防用設備保守費

建築基準法一二条二項により、本件建物全体として自動火災報知設備、避難設備、連結送水口、消火器等の設備の保守・点検が定期的に義務づけられており、右点検結果を豊島消防署に提出しなければならない。管理組合は、右保守・点検を行い、その結果を豊島消防署に提出している。この費用は、本件建物全体の存立・維持に直接関係する費用であるから、被告も負担すべきである。

(4) 法定建築設備点検費

建築基準法一二条二項により、本件建物全体として非常用照明装置、給排水設備等の建築設備について年一回の定期検査が義務づけられており、右検査結果を豊島区役所に報告し報告済証を受領しなければならない。管理組合は、右検査を行い、その結果を豊島区役所に提出している。この費用は、本件建物全体の存立・維持に直接関係する費用であるから、被告も負担すべきである。

(5) 特殊建築物定期検査費

本件建物は、全体として特殊建築物に該当するため、建築基準法一二条二項により、敷地の地盤、建物の基礎部、柱等の防火上の管理状況をはじめ、防火、避難、衛生関係等について定期的に調査を義務づけられており、その結果を豊島区長に報告しなければならない。管理組合は、右定期検査を行い、その結果を豊島区長に報告している。この費用は、本件建物全体の存立・維持に直接関係する費用であるから、被告も負担すべきである。

(6) 電気料

電気料のうちエレベーターの動力料を除いた共用電灯料である。全体共用部分である階段に一一か所、通路に四か所、廊下に三五か所それぞれ電球が設置され、また、全体共用部分である外壁等に屋外コンセントが二か所設置されている。全体共用部分たる階段等の照明のために必要な電気料は、全体共用部分の維持管理に係る費用である。

(7) 水道料(下水道料金を含む。)

本件建物の全体共用部分である通路に設置された水道及び管理事務室の台所用水道に係る水道料は、これを下水に流すための下水道料金とともに全体共用部分の維持管理に係る費用である。

(8) 火災保険料等

管理組合は、本件建物の管理開始以来、住宅総合保険たる火災保険、施設賠償責任保険及び積立マンションライフ総合保険に加入し、保険料を支払ってきたが、いずれの保険もその対象範囲は本件建物全体に及んでいる。

(9) 備品消耗品費

本件建物の全体共用部分である通路部分の清掃後の消毒液、蛍光管、洗剤、ゴミ袋等の購入に係る費用である。

(三) 右全体共用部分の維持管理にも係る費用の各勘定科目毎の一か月の平均額は、別紙全体共用部分の管理費用負担額計算書(以下「計算書」という。)の「全体共用部分にも係る費用」欄記載のとおりである。ただし、電気料は、エレベーター等の動力料金と共用電灯料を含んでいるところ、エレベーターは管理規約により住戸共用部分と定められているため、共用電灯料のみ全体共用部分の維持管理に係る費用として計算した。電気料月平均額六万九三九八円から動力料金月平均額二万一三四〇円(平成三年八月から平成四年七月までの一年間につき動力料金と共用電灯料金を別々に計算すると、動力料金の占める割合が月平均三〇・七五パーセントになるので、右割合を電気料月平均額六万九三九八円に乗じた金額)を控除した四万八〇五八円が全体共用部分にも係る費用である。

(四) ところで、本件建物の共用部分を、管理規約に従い、また、管理規約に明確に定められていない部分は当該部分の構造、用途等から判断して、全体共用部分と住戸共用部分の面積計算をすると、別紙面積分布一覧表記載のとおりであり、全体共用部分と住戸共用部分の面積はそれぞれ五三五・二六九平方メートル(全体共用部分面積合計五九九・四四平方メートルから専用使用部分面積合計六四・一七一平方メートルを控除したもの)と三一五・五六五平方メートル(住戸共用部分面積合計四八九・四〇五平方メートルから専用使用部分面積一七三・八四平方メートルを控除したもの)であって、これを分数に換算すると、全体共用部分は一万分の六二九一、住戸共用部分は一万分の三七〇九となる。

そこで、全体共用部分の維持管理にも係る費用のうち全体共用部分のみの維持管理に係る費用は、計算書の「全体共用部分にも係る費用」の月平均額に全体共用部分の面積割合である一万分の六二九一を乗じることによって算出することができるから、右面積割合を乗じると、計算書の「全体共用部分に係る費用」欄記載の金額となる。

(五) 以上により算出された勘定科目別の全体共用部分のみの維持管理に係る費用の額に、管理規約の定めに基づき被告の全体共用部分の共有持分割合である一万分の四二七四を乗じた額が、被告が毎月負担すべき全体共用部分の維持管理費用となる。右金額は、計算書の「全体部分の内一〇一号室負担」欄記載のとおりであり、昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに被告が負担すべき全体共用部分の維持管理費用の月平均額は一三万三九四八円である。これに右経過期間の九六か月を乗じると一二八五万九〇〇八円となる。

次に、以上と同様にして算出した平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの月平均額は一五万〇一七一円であり、これに平成九年一二月三一日までの経過月数六五か月を乗じると九七六万一一一五円となる。

したがって、昭和五九年八月一日から平成九年一二月三一日までに被告が負担すべき全体共用部分の維持管理費用の合計額は二二六二万〇一二三円となる。

2 被告が別紙第二物件目録記載のレール等を設置した敷地については、管理規約により被告が専用使用権を有するが、その用法は車庫の出入口としてであり、構造物等の設置、形状、外観等の変更は禁止されている。管理組合では、平成五年一二月四日付け定期総会において、被告は右レール等を撤去し原状回復せよとの決議を可決した。

被告の行為は、管理規約又は建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)六条一項に違反するから、原告は、被告に対し、管理規約又は区分所有法五七条一項、もしくは管理組合の集会における決議に基づき、右レール、鉄扉固定枠及び車庫鉄扉を撤去し、レール跡を塞いで原状回復することを求める。

3 原告は、本訴提起を原告訴訟代理人に委任し、着手金及び報酬として一七〇万円を支払うことを約した。管理組合では、平成五年一二月四日付け定期総会において、被告は本件訴訟に係る弁護士費用を支払えとの決議を可決した。

原告は、被告に対し、管理規約違反又は不法行為、もしくは管理組合の集会における決議に基づき、一七〇万円の支払を求める。

三  被告の主張

1 本件建物は、外見的には一棟の建物に見えるが、一〇一号室と住戸部分とは構造上独立した別個の建物として設計されている。まず、一〇一号室と住戸部分とは内壁によって物理的に判然と区別されている。また、外観的には、一〇一号室は焦げ茶色のタイル、住戸部分は茶色のタイルと明確に区別できるようになっている。さらに、内部構造的には、電気、水道、ガス、消防用設備、エレベーター、入口はそれぞれ別異になっており、各諸設備は共用しておらず、別個独立の系統と構造を有している。建物の名称についても、一〇一号室は「第二角萬ビル」、住戸部分は「ライオンズステーションプラザ大塚第二」と称し、住居表示も一〇一号室は「二丁目三番一五号」、住戸部分は「二丁目三番一三号」である。そして、被告は、株式会社大建創業に管理を委託し、管理組合は、当初大京管理株式会社に、ついで日本ハウズィング株式会社に管理を委託して、それぞれ別々に管理しているものである。

2 入口は、二か所に分かれ、住戸部分の入口にあるエレベーターは住戸部分の五階から一一階まで昇降するが、一〇一号室の一階から四階までは停止せず、一〇一号室の入口にあるエレベーターは一〇一号室の一階から四階まで昇降するが、住戸部分の五階から一一階までは到達しない構造になっている。住戸部分の給水は、被告専有の一階駐車場部分の地下に貯水槽があり、そこから屋上の高架水槽に汲み上げ、住戸部分に送っており、排水は、住戸部分専用の排水管を使って排水している。一〇一号室の給水は、一階内階段の下に貯水槽があり、そこから一階から四階に送られており、排水は、一〇一号室専用の排水管を使って排水している。電気は、外部から高圧線を引き込み、東京電力管理下の一階電気室で三本に分かれ、一本は電気室内の変圧器を通って高圧電流を低圧電流に変えて住戸部分に送られる。他の一本は第二角萬ビルが事務所、店舗ビルとして設計されたために、同室では変圧せずに、そのまま屋上まで引かれ、第二角萬ビル専用使用に係るキュービクル内の変圧器を通って一〇一号室に引き込まれており、もう一本は隣のビルに送られている。電話線は、二階ゴミ置場通路に外部からの引込口があり、そこから第二角萬ビルに専用回線として五〇回線引けるように設計されており、住戸部分には専用回線として一〇〇回続引けるように、それぞれ分離して設計されている。

このように、本件建物は、管理費がかかるような諸設備については、完全に一〇一号室と住戸部分とに分断されており、管理が別異に行われ、混合・混同が避けられるように設計施工されているのである。

3 管理規約によれば、敷地と建物の全体共用部分については、被告と組合員の共有とされ(五条)、その内訳は、管理規約の別表第一に明記されている。右別表によれば、全体共用部分は、建物部分については「建物の基礎、外壁、屋上、塔屋、電気室、通路(二階)、外階段」、建物の附属物については「給排水衛生設備(但し汚水槽を除く)、非常警報設備、連結送水管設備、共同視聴用アンテナ、避雷針」、附属施設については「ポリバケツ置場」である。管理規約七〇条により一〇一号室を所有する被告が負担する全体共用部分に係る費用とは、右全体共用部分の維持管理に要する費用のうち全体共用部分の共有持分の割合(一万分の四二七四)に応じた額である。そして、右全体共用部分のうち管理費がかかるものは、外階段の清掃と照明程度であり、それ以外に臨時に支出しなければならない費用については、管理規約七〇条一項に従い、別途双方の負担とし、支出の都度、支出を伴う行為をするか否かについて被告と協議し、負担割合を決めて分担するのが原則であり、原告側で勝手に全体共用部分の管理を行い、管理費を被告に請求することは越権であり、管理規約一七条の趣旨にも反する。原告は、全体共用部分にかかる費用分について独自に拾い上げ、しかも原告が独自に策定した面積割合に基づき被告に請求するものであって、失当である。

4 原告の面積分布一覧表のPH階の屋根二〇・一五平方メートルについては、エレベーター機械室一一・四〇平方メートルと外階段八・七五〇平方メートルの屋根を指しているようであるが、屋根はエレベーター機械室の上しかなく、外階段の上には屋根がなく、屋根部分としては一一・四〇平方メートルであり、しかも住戸部分のための高架水槽の設置にかかわる部分であり、全体共用部分は、アンテナ及び避雷針が設置されている〇・一平方メートルにすぎない。四階の風除室三・九二平方メートルは、被告の専用使用部分である。一階借室一九・〇八平方メートルは、東京電力管理の電気室であり、管理組合と被告のいずれにも所属しない部分である。電気室入口一・六一五平方メートルは、住戸共用部分である。五階南側屋根については住戸部分のみが使用する緊急避難路が設置されていても、建物全体の屋根部分であるから、緊急避難路部分三・六平方メートルを控除すべきではなく、南側屋根面積三二・一五平方メートルを全体共用部分とすべきである(したがって、五階住戸共用部分各戸付属バルコニーは、二九・六三〇平方メートルから三・六平方メートルを控除した面積となる。)。

四  争点

原告が被告に分担を求める各費用が本件建物の全体共用部分の管理に要する費用と認められるか。また、原告の全体共用部分の管理に要する費用の算出方法が相当なものと認められるか。

第三  争点に対する判断

一  争いのない事実及び《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件建物は、敷地の所有者である被告と開発業者である大京が昭和五八年八月等価交換方式により建築した区分所有建物であり、一階から四階までを一戸の専有部分(一〇一号室)として被告が取得し、事務所兼倉庫、車庫として使用し、五階から一一階までの住戸部分合計五六戸を大京が取得したうえ分譲した(階数は登記簿上の表示に従う。以下同じ。)。

2 大京は、本件建物完成前の昭和五七年ころから住戸部分の分譲を開始したが、右分譲の際の売買契約書、覚書、重要事項説明書によると、買主は、大京が作成した管理規約を承認するとともに敷地並びに建物の共用部分及び附属施設の維持管理を行うため住戸部分の他の買主とともに右管理規約に基づいて管理組合を結成することを承諾するとされている。また、右重要事項説明書によれば、一〇一号室を取得した区分所有者は、管理規約を承認のうえ別途自主管理することとされているが、全体共用となる設備、施設等については共有持分の割合で別途費用負担するとされている。

3 管理規約によると、管理規約は、住戸部分について最初の所有権移転のあった期日に発効し、管理組合も同日設立されたものとみなされる。管理規約によると、管理組合は住戸部分の全区分所有者で構成され、被告は組合員ではないが、全体共用部分に関してのみ総会の議決に加わることができるとされている。

4 管理規約によると、共用部分は全体共用部分と住戸共用部分とに分けられている。全体共用部分は、建物の基礎・外壁・屋上・塔屋・電気室・通路(二階)、外階段等の建物の部分、給排水衛生設備(ただし汚水槽を除く。)・非常警報設備・連結送水管設備・共同視聴用アンテナ・避雷針等の建物の附属物及びポリバケツ置場等の附属施設であり、一〇一号室区分所有者と住戸部分区分所有者全員の共有とされている。住戸共用部分は、エントランスホール・エレベーター室・エレベーター機械室・外廊下・管理事務室・バルコニー・ルーフバルコニー・受水槽(地下)等の建物の部分及びエレベーター・屋上高架水槽・集合郵便受等の建物の附属物であり、住戸部分区分所有者全員の共有とされている。

5 管理規約によると、全体共用部分及び住戸共用部分について一定の者に専用使用が認められているが、被告も建物敷地のうち一〇一号室が北側及び南側の公道に接するまでの部分等について専用使用が認められている。

6 管理規約によると、敷地及び共用部分等のうち専用使用部分を除いた部分については管理組合がその責任と負担において管理するとされているが、一〇一号室区分所有者が全体共用部分にかかる費用については全体共用部分の共有持分の割合で別途負担することが管理組合員によって容認されている。管理規約によると、全体共用部分の共有持分の割合は、本件建物の総床面積に対する各区分所有者の専有部分の面積の割合によるとされており、被告のそれは一万分の四二七四である。

右の事実によれば、被告は、本件建物建築の経緯、管理規約の内容等に照らして管理規約を承認していたことが推認できるのであって、被告は、右規約に基づき、全体共用部分の維持管理にかかる費用について共有持分の割合である一万分の四二七四の割合で負担しなければならないと認めることができる。なお、被告が管理組合の集会に招集の通知を受けて出席していたことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、個々の管理費の支出について承認していたと認めることはできないが、被告は、全体共用部分の維持管理にかかる費用について共用持分の割合である一万分の四二七四の割合で負担することを本件建物建築時に包括的に承認しているのであるから、全体共用部分の管理費として認めることが著しく不相当なものでない限りその責めを免れることはできないというべきである。管理組合が支出した管理費については後叙のとおりであるが、その支出が著しく不相当であると認めるに足りる証拠はない。

二  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 大京から住戸部分の分譲を受けた買主らは、売買契約の際に、管理組合が大京管理株式会社に対し所定の管理委託契約書により本件建物の管理を委託することを承諾していたが、管理組合は、昭和五九年八月一日以降平成二年三月三一日まで大京管理株式会社に対し、右管理委託契約書に基づいて、管理組合が管理する敷地並びに全体共用部分及び住戸共用部分についての管理を委託した。また、管理組合は、同年四月一日以降、日本ハウズィングに対し、ほぼ同内容で管理を委託した。

2 管理組合が委託した業務の内容は、事務管理業務、管理員業務、清掃業務、設備管理業務であり、その内容は以下のとおりである。事務管理業務は、管理費、修繕積立金等の収納・保管、諸費用の支払、帳簿等の管理、未収納金の徴収、敷地等に係る公租公課の配分・徴収・納付からなる出納業務、管理組合の予算案及び決算案の作成の補助、会計の収支状況の報告からなる会計業務、補修工事、設備の保守点検等の外注に関する業務、防災管理業務の補助、施設運営の補助、各種契約の代理、損害保険契約の代理、大規模修繕計画の立案補助、総会・理事会の運営の補助、通知事項の伝達、官公庁・分譲業者等との折衝からなる管理運営業務である。管理員業務は、受付、点検、設備監視、立会、報告連絡、管理補助の業務である。清掃業務は、エントランスホール、エレベーターホール、エレベーター室、外廊下、管理事務室、屋上、ポリバケツ置場、外階段、建物回りの清掃である。設備管理業務は、建物回り(屋上、内外壁等)、施設(ポリバケツ置場等)、電気設備、エレベーター設備、テレビ共聴設備、消火設備(連結送水管等)、非常警報設備、給水設備、排水設備の管理である。

3 管理組合は、大京管理株式会社及び日本ハウズィングに対し、別紙共用部分等管理費用一覧表の管理委託費欄記載のとおりの管理委託費を支払った。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までの管理委託費の合計は三六五七万六一八〇円、月平均額は三八万一〇〇二円であり、管理費を値上げした平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの管理委託費の合計は五一九万一二〇〇円、月平均額は四三万二六〇〇円である。

右の事実によれば、管理組合は、被告の承認している管理規約に基づいて、住戸共用部分のみならず全体共用部分についても管理会社に管理を委託し、管理委託費を支出したのであるから、右管理委託費は全体共用部分にも関係する費用であると認めることができる。被告は、管理委託費は全体共用部分には関係しない費用である旨主張するが、管理費及び修繕積立金が全体共用部分の管理・修繕のための費用でもあることは明らかであるから、管理費や修繕積立金に係る出納業務や会計業務が全体共用部分に関係しないとはいえないし、それ以外の事務管理業務や管理員業務、清掃業務及び設備管理業務も全体共用部分の管理や清掃を含むものであることは管理委託契約の内容自体から明らかであるから、これらも全体共用部分に関係しないということはできない。

三  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件建物内には被告の専有部分内に存し、一階から四階まで停止するエレベーターと住戸部分の二階エントランスホールにあり、五階から一一階に停止する住戸部分居住者のためのエレベーターがある。

2 被告は、全体共用部分たる屋上の一部に専用使用権の設定を受けてキュービクル(自家用受変電施設)を設置しているところ、被告が依頼した電気管理士は、毎月右キュービクルの保守点検のため、管理規約において住戸共用部分とされている住戸部分居住者のためのエレベーターを使用している。

3 管理組合は、訴外日立エレベーターサービス株式会社との間で点検契約を締結し、点検料金及び建築基準法一二条二項に基づく定期検査代行費用等として別紙共用部分等管理費用一覧表の昇降設備保守費欄記載のとおり保守費を支払った。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までの昇降設備保守費の合計は四一六万〇六八〇円、月平均額は四万三三四〇円であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの昇降設備保守費の合計は五四万三八四〇円、月平均額は四万五三二〇円である。

右の事実によれば、住戸部分の居住者のためのエレベーターは、専有部分に属しない建物の附属物として法定共用部分であるところ、被告においても屋上キュービクルの保守点検のため定期的に使用しているのであるから、一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかであるとは必ずしもいえないのであって、管理規約の定めにかかわらず全体共用部分というべきである。したがって、昇降設備保守費は全体共用部分に関係する費用ということができる。

四  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件建物は、消防法一七条、一七条の三の三に基づいて消防用設備等を設置・維持し、定期的に点検・報告をしなければならないとされているところ、管理組合は、法令の定めに従って定期的に本件建物に設置されている自動火災報告設備、避難設備、連結送水管、避難器具、消火器を点検し、三年に一度は豊島消防署長に点検結果を報告した。自動火災報知設備については、一〇一号室と住戸部分にそれぞれ別系統で存在しており、設備として連結されていないし、避難器具は住戸部分居住者のためのものであるが、連結送水管は全体共用部分であり、点検対象となる消火器には全体共用部分たる二階通路や被告のキュービクル内に置かれている消火器も含まれている。

2 本件建物は、建築基準法一二条二項に基づいて一定の建築設備について年一回定期検査を実施し、その検査結果を報告しなければならないところ、管理組合は、法令の定めに従って非常用照明装置と給排水設備を検査し、毎年豊島区長に報告した。ところで、住戸部分の給水は、一階車庫の地下にある受水槽から屋上の高架水槽にポンプで汲み上げられ、そこから各戸に給水されるのに対し、一〇一号室の給水は、一階内階段下に受水槽があり、そこから一階から四階に送水している。また、排水については、一〇一号室の排水及び住戸部分の排水は、全体共用部分たる二階通路下の排水管で最終的に合流したうえ、外部に排出される。

3 本件建物は、建築基準法一二条一項に基づいて特殊建築物として敷地、構造及び建築設備について定期検査を実施し、その検査結果を報告しなければならないところ、管理組合は、法令の定めに従って敷地の地盤や建物の基礎部、外壁、外階段等を検査し、三年に一度豊島区長に報告した。

4 管理組合は、別紙共用部分等管理費用一覧表の各該当欄記載のとおり消防用設備保守費、法定建築設備点検費及び特殊建築物定期検査費を支払った。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに支出された消防用設備保守費は三七万五七五〇円(月平均額三九一四円)、法定建築設備点検費は二八万一三〇〇円(月平均額二九三〇円)、特殊建築物定期検査費は九万九九一〇円(月平均額一〇四一円)であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までは法定建築設備点検費のみが一一万三三〇〇円(月平均額九四四二円)支出された。

右の事実によれば、消防用設備保守費、法定建築設備点検費及び特殊建築物定期検査費は、全体共用部分にも関係する費用であるということができる。

五  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件建物には、全体共用部分たる外階段に一一か所、同じく全体共用部分たる二階通路に四か所、廊下に三五か所共用電灯が設置され、また、外壁に少なくとも四か所屋外コンセントが設置されている。管理組合は、別紙共用部分等管理費用一覧表の電気料欄記載のとおり電気料を支出した。右電気料には共用電灯料のほかエレベーター等の動力料金が含まれるところ、平成三年八月から平成四年七月までについてみると、その中で共用電灯料の占める比率は六九・二五パーセントである。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに支出された電気料の月平均額は六万九三九八円であるが、そのうち右比率に対応する四万八〇五八円が共用電灯料にかかる部分である。また、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までに支出した電気料の月平均額は五万九七七〇円であり、そのうち共用電灯料にかかる部分は四万一三九一円である。

2 管理組合は、全体共用部分たる二階通路に設置されている水道及び管理員室に設置されている水道のために別紙共用部分等管理費用一覧表の水道料欄記載のとおり水道料(下水道料を含む。)を支出した。本件建物の二階通路には全体共用部分たるゴミ置場があるが、二階通路に設置されている右水道を利用して管理員により右ゴミ置場の清掃がされている。また、管理員が全体共用部分の管理にも携わっていることは前叙のとおりである。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに支出した水道料は二〇万五四六五円(月平均額二一四〇円)であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までに支出した水道料は一万八四一四円(月平均額一五三五円)である。

3 管理組合は、本件建物の管理開始以降、訴外日本火災海上保険株式会社等との間で住宅総合保険契約、賠償責任保険契約及び積立マンションライフ総合保険契約を締結し、別紙共用部分等管理費用一覧表の火災保険料等欄記載のとおり保険料を支払った。これらの保険は、いずれも全体共用部分に対する損害あるいは全体共用部分に起因した損害をも補填するものである。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに支出した保険料は一二三万六六三五円(月平均額一万二八八二円)であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までに支出した保険料は二九万四五七五円(月平均額二万四五四八円)である。

4 管理組合は、本件建物の管理開始以降、別紙共用部分等管理費用一覧表の備品消耗品欄記載のとおり備品消耗品費を支出してきたが、右備品や消耗品の中には全体共用部分たる二階通路部分の清掃に使うゴミ袋や洗剤、清掃後の消毒液、全体共用部分たる外階段の蛍光灯等の費用が含まれている。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までに支出した備品消耗品費は二七万五四六九円(月平均額二八六九円)であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までに支出した備品消耗品費は四万四〇九六円(月平均額三六七五円)である。

右の事実によれば、電気料、水道料、保険料及び備品消耗品費は、全体共用部分にも関係する費用であるということができる。

六  ところで、以上に認定した全体共用部分に関係する費用は、住戸共用部分にも関係する費用であるから、その全額について全体共用部分の共有持分の割合で被告に負担させるのは適当でないといわなければならない。しかしながら、個々の費用が全体共用部分と住戸共用部分とに分けて支出されるものではないことから、全体共用部分の維持管理のためにだけ現実に支出された金額を算出することは不可能である。かかる場合には、全体共用部分と住戸共用部分の床面積の割合(ただし、専用使用部分については、管理規約によると、専用使用を認められた区分所有者の責任と負担において管理することになっているため、各区分所有者が管理すべき専用使用部分は除外する。)に応じて投下費用が支出されたとみるのが一応合理的であるということができる。

《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件建物及び敷地の面積分布は、別紙面積分布一覧表記載のとおりである。

2 本件建物一階については、電気室(借室)が管理規約で全体共用部分とされている。外部から高圧電流がここに引き込まれ、住戸部分に対してはここに設置されているトランスによって低圧電流に変換されて各戸に送電され、一〇一号室に対してはここから屋上のキュービクルに高圧電流を引き込み、そこで低圧電流にして送電している。なお、被告が専有する一階車庫の地下に住戸部分の受水槽があるが、車庫としての排他的使用に支障はなく、右使用により特に受水槽の保存、利用に影響はない。一階には住戸共用部分は存在しない。

3 本件建物の二階については、通路、外階段が管理規約で全体共用部分とされている。エレベーター室が全体共用部分であることは前叙のとおりである(ただし、原告は、面積計算に際してはエレベーター室を管理規約に従って自己に不利益に住戸共用部分として扱っているので、便宜上ここでは住戸共用部分として扱うこととする。)。また、EPS、PSスペース(以下「パイプスペース」という。)には、一〇一号室内のアンテナ線パイプを含む共用設備である各種の配線、配管類が収納されているため全体共用部分である。管理規約は、エントランスホール、管理事務室、集合郵便受けを住戸共用部分としている。

4 本件建物の三階及び四階については、外階段、パイプスペース及び被告専有部分である二階風除室の屋根部分が全体共用部分であり、エレベーター室が住戸共用部分である。なお、バルコニーは被告の専用使用が認められている。

5 本件建物の五階については、外階段、パイプスペースと一〇一号室の屋根に当たる北側と南側のルーフバルコニーが全体共用部分である。なお、南側ルーフバルコニーの東側の一部は住戸部分の居住者のための避難口が設置され、また、専用使用が認められている。住戸共用部分は、外廊下とエレベーター室である。各戸に接するバルコニー及びルーフバルコニーについては住戸共用部分であるが、専用使用が認められている。なお、五階から一一階の外廊下の壁内には電気室からキュービクルをつなぐ電線が通っている部分があるが、右部分は全体共用部分であり、被告が専用使用している。

6 本件建物の六階から一一階については、外階段及びパイプスペースが全体共用部分であり、外廊下及びエレベーター室が住戸共用部分である。なお、南側の各戸に接するバルコニーは住戸共用部分であり、各区分所有者の専用使用が認められている。

7 本件建物のPH階については、屋上、外階段の屋根部分が全体共用部分である。ただし、被告のキュービクルが置かれている部分については被告の専用使用が認められている。なお、エレベーター機械室については、本来エレベーター室と同様全体共用部分であるが、原告は、管理規約に従って住戸共用部分として面積計算をするため、便宜上それに従うこととする。

8 本件建物のR階については、管理規約で全体共用部分とされている塔屋の屋根部分が全体共用部分である。なお、高架水槽設置場所は、管理規約上専用使用部分とされていない。

9 敷地については、電気室入口部分、その奥の共用電灯のメーター等の共用設備が設置された部分及び二階通路が公道と接する部分が全体共用部分であり、住戸部分の二階玄関が公道に接する部分が住戸共用部分である。なお、一〇一号室の二階玄関部分が公道に接する部分及び一階南側車庫入口部分は、全体共用部分であるが、被告の専用使用が認められている。

右の事実によれば、全体共用部分は五三五・二六九平方メートルとなり、住戸共用部分は三一五・五六五平方メートルとなる。その比率は、全体共用部分が一万分の六二九一であり、住戸共用部分が一万分の三七〇九である。

七  そうすると、二ないし五項で認定した全体共用部分に関係する費用である管理委託費、昇降設備保守費、消防用設備保守費、法定建築設備点検費、特殊建築物定期検査費、電気料、水道料、火災保険料等、備品消耗品費の月平均額に一万分の六二九一を乗じたものが右各費用のうち全体共用部分のみのために支出された部分の月平均額となり、その額は別紙全体共用部分の管理費用負担額計算書のとおりとなる。昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までの右月平均額の合計は三一万三四〇三円であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの右月平均額の合計は三五万一三五九円である。したがって、右金額について被告は全体共用部分の共有持分割合である一万分の四二七四について支払の責めを負うことになり、昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までの月平均額は一三万三九四八円であり、平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの月平均額は一五万〇一七一円である。

以上によれば、昭和五九年八月一日から平成四年七月三一日までの管理費用として一二八五万九〇〇八円、平成四年八月一日から平成九年一二月三一日までの管理費用として九七六万一一一五円の支払義務があるといわなければならない。

なお、《証拠略》によれば、原告は、定期総会の決議に基づいて、本訴提起を原告訴訟代理人に委任し、着手金及び報酬として一七〇万円を支払うことを約し、既に半額を支払ったことが認められる。右金額は、本件事案の難易、訴訟の経緯、認容額等に照らして相当なものと認められる。

八  争いのない事実及び《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 被告は、管理規約において、敷地のうち一〇一号室が直接する一部で南側前面公道までの部分について、通常の倉庫、車庫の出入口及び営業用看板設置場所としての用法で専用使用することが認められている。管理規約によると、専用使用を認められた区分所有者は、専用使用部分を自己の責任と負担において管理することとされ、右管理を行うにあたっては、当該区分所有者は、当該部分に構造物、建築物等を構築、設置し、又はその外観、形状等を変更してはならないとされている。

2 被告は、右専用使用部分を車庫の出入口として使用していた。当初、本件建物の車庫の出入口にはシャッター扉があり、それが壊れた後はビニールののれんを設置していたが、被告は、防犯上の問題もあって、昭和六〇年ころ、右専用使用が認められている敷地と公道との境に、管理組合の承諾を得ることなく別紙第二物件目録記載のレール、鉄扉固定枠及び車庫鉄扉を設置した。

右の事実によれば、被告は、専用使用を認められた全体共用部分たる本件建物の敷地について管理規約に反して構造物を設置したのであるから、原状に回復する義務があるといわなければならない。

九  以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 足立 哲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例